2016年7月27日水曜日

「すごい挑戦ですね」



「だいぶなれましたね」
早朝、お客さんにいきなりそういわれた。
「え?あ、はい。おかげさまで。。」

なれないバイトを始めたのが1年前。初めの頃から、ずっと見てくれていたのだ。
それまでスムーズに動いていた手が、急にぎこちなくなる。

「そういわれると、なんだかきこちなくなっちゃいます。。」
苦笑いしていると、

「すごい挑戦ですね」
歳の頃は50代後半、出勤前のきちんとした身なりの彼女は、私にむかってにっこりと笑った。

挑戦。。。。
彼女の言葉が耳に残った。

そういえば、私はずっと挑戦を続けてきたなあ。
美大時代に、親にナイショでもうひとつ音楽の学校に行ってたこと。
デザイン事務所を転々とし、早いうちからフリーのイラストレーターになったこと。
ニューヨークでイラストレーターとして挑戦したこと。
アーティストグリーンカード取得に挑戦したこと。
グリーンカードも手に入り、いいレップに入り、仕事もがんがんに忙しかった。
しかし悠々自適なニューヨーク生活にピリオドを打ち、
日本での田舎生活を始めたこと。
200坪の畑で、無肥料栽培に挑戦していること。

そして、今、バイトをしていること。。。。
これは、挑戦なのだろうか。。。。

きっかけは1年前の個展。11年ぶりの東京での個展は大盛況だった。
作品の中に、あたらしい道が開けた実感があった。
そしてその時を境に、イラストレーターの仕事がぴったりと止まったのだ。。。

生活のためにバイトをしている今の現状。
これのどこが挑戦なのだ?
挑戦というよりは、苦しみだ。屈辱だ。
まるで「きみの才能は地に落ちた」と言わんばかりの仕打ちではないか。。!



今までは、はっきりとした「目標」があった。
だが、これは「私」が意図しないところの、運命の「目標」であり、ひょっとしたらそれを今、挑戦中なのかもしれない。。。。

先程の彼女は、単に私が60過ぎに見えて、
「こんなご老人がこんな所でバイト。大変だろうな。。」
と言う思いだったのかも知れぬ。

確かにこのバイトは、今の社会の人々の生活を垣間みる。イラストレーターであったら、決してのぞけない世界。その社会の断片を見ながら、私は日々、洞察をもらい続けている。今まで気づけなかったことが、どんどん気づきはじめて来る。

ここから先は、何が起るのか全くわからない。
何を目標としているのかもわからない。
ただ、私は「何か」に挑戦しているようだ。。。。



絵:「くもまつまきてふ」
9月の個展に向けての作品。素材/洋紙、和紙、水彩、クレヨン


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