3日前の夜、小学生だったころの私を思いだしていた。
2、3年生ころの私。
記憶の中の「私」は、母が作ってくれた黄色いワンピースを着て、家の門の前でしゃがんでいた。
その顔は哀しげだ。母に怒られてどうしていいかわからず、家を飛び出したはいいがどこにも行けず、門の前で泣いていた。
動かない写真での顔の記憶はあったが、その姿が動き始めた瞬間、その存在が苦しくなるほど愛おしくなった。
私はそばに寄って、しゃがんでいる幼い私を抱きしめた。
ビックリした顔が見上げた。その顔を覆うようにして、私はグッと抱きしめる。
「だいじょうぶだよ。。。だいじょうぶ。。」
言葉が出て来くる。
「今は辛いかもしれない。けど大人になったあなたはこんなに才能ある存在になったよ。心配しないで。あなたは何も悪くない。あなたは何もまちがっていない。。。」
布団の上で座る私のほおを涙がつたった。
そのとき、幼い頃ふいにやって来る安堵、やさしい雰囲気、温かい愛情のようなものの気配があったのをおもいだした。
それは今、私がこうやって彼女を抱きしめているからではないのか?50年のときを隔てて訪れた、未来の私からのおもいだったのか?
そんな絵物語のような事を考えた。
それから、思いだしては、彼女を抱きしめている。
私を見つけると、向こうからしがみついてくる。見上げてくる心細そうな顔。
「だいじょうぶ。だいじょうぶ。あなたはなにもまちがっていない」
彼女の体温と私の体温が一緒になる。
いつのまにか彼女は消えている。
ただ、そこにふんわりと漂う空気がある。
過去の彼女を癒す。
過去の自分の哀しみが消えると、
今の自分は変化するのだろうか。
いやいや。そんなことは考えないでおこう。
今はただ、彼女と一緒にいる時間を味わおう。
絵:「COOPけんぽ」表紙イラスト
この作品を作ったときはニューヨークにいた。日本の原風景が恋しくて恋しくてたまらなかったころだ。幼いころの記憶とおもいが合体した作品。