カウンターだけの小さなお店に行った。
そこは何気ないお店なんだけど、
この世界の大物たちが出入りしていたお店。
一緒に切り盛りしていたおかみさんが亡くなり、
今は大将一人で開いている。
久しぶりに行ったら、
カウンターから見える壁に、小さなおかみさんの写真が貼ってあった。
お任せで出てくる料理。
素朴だけど美味しい。大将の心が入っていた。
私たちへの愛情と、そして寂しさ。
私はそれも一緒に味わう。
目の前に現れている風景と大将と私たち。
そこにはいっぱい物語がある。
その物語について語れば語るほど、切ない。
だけどそれじゃなかった。
その映像について語ってもキリがなかったんだ。
その向こうにあるものが見え始める。
それはいつでも暖かい。大きくて頼り甲斐がある。
それに触れていると幸せになる。
私はその幸せの中にひたっていた。
目の前の物語に答えはないけれど、
形を見過ごしたその向こうにあるもの。
それがすべてに答えてくれていた。
今も。ずっと昔も。
その夜夢を見た。
ピンポン玉みたいなものが空間を漂っている。
よく見ると、いろんな色や形の粘土がぎゅーっと固まって、一つの球体になっていた。
私はそれを見ながらしみじみ思った。
私はこの球体の中をずっとのぞいていたんだ。
真剣に。深刻に。
こんな小さきものの中を。
だけどそれが漂っているもののまわりはなんと大きいのだろう。
そっちが本当の私だった。
絵:MF新書表紙イラスト
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