2022年2月20日日曜日

幸せの中にひたる


 

カウンターだけの小さなお店に行った。


そこは何気ないお店なんだけど、

この世界の大物たちが出入りしていたお店。

一緒に切り盛りしていたおかみさんが亡くなり、

今は大将一人で開いている。


久しぶりに行ったら、

カウンターから見える壁に、小さなおかみさんの写真が貼ってあった。


お任せで出てくる料理。

素朴だけど美味しい。大将の心が入っていた。

私たちへの愛情と、そして寂しさ。

私はそれも一緒に味わう。


目の前に現れている風景と大将と私たち。

そこにはいっぱい物語がある。

その物語について語れば語るほど、切ない。


だけどそれじゃなかった。

その映像について語ってもキリがなかったんだ。


その向こうにあるものが見え始める。

それはいつでも暖かい。大きくて頼り甲斐がある。

それに触れていると幸せになる。


私はその幸せの中にひたっていた。



目の前の物語に答えはないけれど、

形を見過ごしたその向こうにあるもの。

それがすべてに答えてくれていた。

今も。ずっと昔も。




その夜夢を見た。


ピンポン玉みたいなものが空間を漂っている。

よく見ると、いろんな色や形の粘土がぎゅーっと固まって、一つの球体になっていた。


私はそれを見ながらしみじみ思った。


私はこの球体の中をずっとのぞいていたんだ。

真剣に。深刻に。

こんな小さきものの中を。


だけどそれが漂っているもののまわりはなんと大きいのだろう。


そっちが本当の私だった。



絵:MF新書表紙イラスト




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