朝、目を覚ますと、庭に朝日が差し込んでいた。
窓を開けてまだ赤いお日様を眺める。この時間の太陽は目に痛くない。
全身に朝日を浴びる。
川の音、鈴虫の声、鳥の声。。
いつもの日常なのになんだか違う感覚。なんだろう?
ああ、そうだ。旅先の朝の感じ。
知らない土地で迎えた朝の、なんとも言えない清々しい気持ち。
いつもの庭なのに。
何かが違う、この感じは何?
あ、過去が消えている。。。
私というものが背負ったあらゆるアイデンティティ、名前、性別、年齢、住んでいる場所、肩書き、考え、癖、日頃の想い、そして体の記憶までが、すっぽり抜けて、ただここにいる。
旅先の朝の、清々しいけれどなんとも心もとないこの感じは、
「ここはどこ?私は誰?」
といういつもの私が消えた時の、心もとなさなのだったのか。
それと同時に、すべての日常のいざこざをすっかり置いてきた軽さ。
それが心地よくもあり、心もとなさであり。。。
一瞬、体の痛みを感じて、日常に引き戻された。恐れが私の中に入り込んだ。
アイデンティティがどっと押し寄せてくる。
過去は恐れを伴っているのだ。
私はそっと恐れを赦した。
今パソコンに向かってこれを書いている私に、過去は戻ってきている。
名前、アイデンティティ、いつもの思い。。。
それでもさっきまでの朝の感覚は忘れていない。
過去を忘れた私のあの軽さ。ただそこにあるだけのもの。
朝の空気と、光の感じと、それを味わっている何か。
「私」は過去でできている。
過去の寄せ集めが私だ。
過去が消えたら、それはこの私ではなく、とても軽い何か。
とても平和で、静かな喜びがあり、自由だ。
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