「人間、ほしいものがなくなったらおしまいだ」
彼はすごみのある顔でそう言った。
「仕事で苦労してゲットしたお金で、自分にご褒美をやる。それが人生ってもんだ」
実際、すごく苦労された人だから、その言葉に重みがある。そうだよ、そうだよ。その疲れた心とからだを癒すためにも、うんとご自分にご褒美をあげて欲しい。
だけど、ぼそっとこうも言った。
「だんだんほしいものがなくなるんだよな。。。」
その言葉に、欲しいものがなくなる寂しさと、今までとは違う感覚のおとづれ。この二つの意識のせめぎ合いをみた。
いいカメラをたくさん買い、奥さんに宝石類をたくさんプレゼントし、今は江戸切り子をコレクションしている彼。
にもかかわらず、心へのご褒美が、彼自身によろこびを与えなくなっていることに気がつきはじめていた。
そう言う彼が、わたしの絵を買ってくれた。
常にいいものを探し求めて、高価なものを求めて来た彼が、ほしいものがなくなっていくそのときに、わたしの絵が彼の心を動かしたのだ。
彼とあの絵のあいだに、何がおこったのだろう。それはそれを作った本人さえ知る由もない。
絵はふしぎだ。理屈ではわからないなにかを伝えていく。なにかの衝動を与えていく。
わたしの絵はわたしの元を離れて、彼との二人の物語がはじまったのだ。
絵:「落ち葉のダンス」/つくし紙絵展vol.3
和紙、洋紙、水彩、クレヨン
絵:「落ち葉のダンス」/つくし紙絵展vol.3
和紙、洋紙、水彩、クレヨン
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