2008年8月20日水曜日

ナナと私


 
父は警察官だったので、高知県の田舎をしょっちゅう引っ越しした。そのほとんどが海に面したところ。
私には2才違いの犬がいた。ナナと言う。散歩も餌やりも私の仕事。ナナはヨークシャテリアの雑種。子犬の時にもらわれてきた。ケモクジャラのその様子は、近所のおばさんに「この、汚いモップ!」とよく毛嫌いされた。でも目の上にかかった髪の毛がとっても愛らしく、長い毛の感触が肌にやさしい。なでてやると耳をたらして喜ぶ姿が、私は大好きだった。私はいじめられっこだったので、ゆいいつの友達は、ナナだったのかもしれない。ナナは私が悲しいときや、いじめられたときや、うれしいとき、いつもいっしょにいた。学校や家でいやなことがあった時、散歩しながら時々彼女にあたったりもしたけれど、彼女は怒ることは一度もなく、ただ耳をたらしてうしろをとぼとぼついてきた。
浜はそんな私とナナの歴史が刻まれている。太平洋に夕日が沈む時、私は裸足になって砂浜に立ち、赤く染まった海を眺める。ちょうど旅客船のサンフラワー号が九州に向っているところだ。わたしのうしろの屏風のようにそそり立つ山のむこう側は、大阪や東京につづいている。でも心は目の前の大海原にひきつけられる。あの水平線の向こうにはどんな世界が広がっているのだろう。そう思うと胸の奥から何かが湧きあがってくる。じっと水平線を凝視しながら、
「あっちがオーストラリアだ!!」と、叫んでいた。
そんな幼少の思いが、私を異国の地に向わせたのかもしれない。
それはまるでニライカナイに思いをはせるように...。

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