恩師の個展会場は、ちょっとわかりづらい所にあった。
コンビニの店員さんに聞いても
「はあ~。よおわからんのやけど~、たぶん~、川沿いに行かはったらええんちゃうかなあ~と、おもいますわ~。。。」
と、あいまいな返事。
それでもなんとか行き着いた。
「待ってたでえ~~~」
と、待ちくたびれ顔の恩師。
「ゴメ~~ん!待たせちゃったあ~~~」
ギャラリーの奥にもうひとつの入り口。中は真っ暗な20畳ばかりの壁面いっぱいに、モノクロの動画が映し出されていた。
「カシャカシャカシャ。。。」
せわしない音が絶えずしている。
「何の音?」
12枚ほど並べられた動画の中をゴキブリが動き回っている。あるひとつの部屋の中をいろんな角度から写した防犯カメラの映像のようだ。
空間の真ん中に四角い箱が台の上に乗っている。上から照明があてられていて、覗くと小さな部屋があった。
カフカの『変身』をイメージしたその部屋は、古い調度品に囲まれたアンティークな小部屋。重厚感があってなかなか雰囲気がある。これは今回の個展のために、美大の私の先輩、ミニチュアドールハウス作家さんに作ってもらった作品。
真ん中にペルシャ絨毯が敷いてあり、その上にこわれたゴキブリ。。。もとい、こわれた虫の形をしたおもちゃが散乱していた。
「せんせー、このゴキブリこわれてるのに、何で映像は動いてるのん?」
「ゴキブリちゃうでー。虫や!虫!ほんまは、リアルタイムで映像流したかったんやけどな。このおもちゃの電池15分しか持たへんねん~。そやから動画は録画!」
と、いきなり種明かしをする正直な恩師。
「よお見てみ。頭んのことろ、だれがおるねん?」
ゴキブリの頭に丸いものがついていて、よく見てみると、私の顔が映ってるではないか!
「ありゃ~!私や~私の顔や!つくしゴキブリが動いてる~~~。うひゃひゃ~!」
ギャラリーの入り口にある防犯カメラが人物の顔を捉えて、それをゴキブリの頭の所に貼付けるというワザをやっていた。
よくもまあ、そんなアホっぽいアイディアが浮かぶもんだと、恩師の遊び心に呆れる。さすが貯犬箱を送りつけて来た人物だけのことはある。
恩師はかつて美大時代に私に写真を教えてくれた先生。
あのころは薄めのサングラスをかけてちょっと長めのヘアースタイルにちょびひげをたくわえた、ひょうひょうとしたドン・ガバチョみたいな風貌だった。私がどんなムチャぶりを言っても、親指と人差し指でヒゲをはさんでしごきながら「ええでえ~~」という。ちっとも怒られた記憶がない。35年後に私の大阪の個展に来てくれた時もその面影は変わっていなかった。
とはいえ、写真家としての恩師の今回の作品は、写真というよりは、遊び心満載のコンセプチュアルアートという感じ。一瞬のウケは狙えるが、それが心に響くかどうかはまた別問題。
今回の恩師の作品展は、正直言うと私にとっては作品としてのインパクトはなかったなあ。先生、ごみんなさい。
その後、あくの強い居酒屋や、おしゃれな立ち飲みバーなどに連れて行ってもらい、楽しい京都の夜は更けていった。
先生、ごちそうさまでした!
先生、ごちそうさまでした!
絵:紙絵/般若
0 件のコメント:
コメントを投稿