2008年9月10日水曜日

里山の秋



ニューヨークからこの地に移り住んで、はじめて町内会の総会に出た時、会長さんが、
「出かける時や夜寝る時は、みなさん鍵をかけましょう」
といったのを聞いて、私は後ろにのけぞりそうになったことを覚えている。

あの悪名高き麻薬密売人の宝庫、ニューヨーク、ブロンクスに住んでいた私。鍵は少なくても3つはかけないと何が起こるかわからない。パンパンと銃声のなる音は日常的。地下鉄でのポリスの捕り物劇。3軒隣で銃で撃たれたおじさんの死体。アパートの下で大音響とともにいきなり燃え上がる車.....。そんなものを見て来た私にとって、この地は天国のように見えた。なんという極端から極端へのお引っ越し!

あれから4年。近所の人々は最近の日本の変化ゆえに今は鍵をかけている。しかしこの土地のおだやかで暖かい空気は、こんな時代になっても変わらない。いや、私はますます美しいと感じている。

近所のおいしいお豆腐を買いに出る。すると道の途中途中で地元のいろんな人々と会う。道ばたで、このあいだの盆踊りについて話し込んだり、野菜をおすそわけしてもらったり、コーヒー屋さんに連れて行かれたり。ちょっと買い物のつもりが、軽く2時間コースになる。山の緑がいつのまにかシルエットになって、たそがれ時になっていた。買ったお豆腐をふりふり、ゆっくり我が家にたどりついてお豆腐を取り出すと、今度は思わぬおまけが入っていた、なんてことも。そんな心遣いがうれしい。

悪いことに注目し見張ることは、知的な行為かもしれない。けれどもいつのまにかミイラ取りがミイラになって、良いものを見失う可能性だってある。こんな時代だから、ここはひとつ、あほうのようになって、よきもの、美しいものに注目する時間があってもいいかもしれない。
今日の空は、また一段と美しいじゃあないですか。

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