「つくしちゃんは、大きくなったら、何になりたい?」
「?。。。。大きなつくしちゃんになります!」
ここで大人は爆笑。
つくしちゃんは、なんで笑われるのか、さっぱりわかりません。
大きくなったら、何になる?
自分じゃない、何かにならなきゃいけないのか?
自分じゃない、別のものにならなきゃいけないのか?
「そうじゃなくて、ほら、いろいろあるでしょ?
看護婦さんとか、先生とか。。。」
「看護婦さん。。。。じゃあ、私、看護婦さんになる!」
その時、つくしちゃんの心に小さなうずきがありました。
自分じゃない何かに、
どこかにある形に自分をはめ込まないといけないんだ。
それがこの世界のルールなんだ、と。
ある日学校の先生がみんなに紙を配りました。
「今日はテストの日です。答案用紙に答えを書いて、みんな提出してください。」
つくしちゃんは初めて見る紙にキョトンとしました。
そして「提出」という言葉を聞いた時、ドキッとしました。
普段から何をやっても遅い、「のろま」というあだ名をもらっていた彼女は、
とにかく早く「提出」をしないといけないと思いました。
よく見ると、紙の右上に、「なまえ」と書いてありました。
つくしちゃんは必死で名前を書いて
「先生、できましたー!」と提出しました。
「あら。つくしちゃん、早いのねえ」
と、答案用紙を見ると、名前しか書いてません。
「つくしちゃん。名前しか書いてないじゃない。
ほら。ここに空欄があるでしょう?
そこに答えを書いてきてね。そこを埋めないといけないのよ。」
よく見ると、いっぱい文字が書かれてある下に、
いくつかの白いスペースが空いていました。
「ああ、そっか。ここを埋めなきゃいけないのね。」
そう思ったつくしちゃんは、
自分が知っているひらがなで、その空欄を埋めました。
それは言葉にも、質問の答えにもなっていません。
そもそもテストという意味も、問題という意味も、
答えという意味も知りませんでした。
ただ彼女が知っているひらがなを次々に嬉々としていっぱい書きました。
そして誰よりも早くテストを「提出」できたのでした。
つくしちゃんは、大満足でした。
この頃、私の母とその先生は友人でした。
後日、この話を聞いた母は、二人で大笑いをしたそうです。
おおらかに受け止める、いい時代でした。
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