2010年5月12日水曜日

所有欲




近頃よくおばさんがやってくる。どうもウチの畑が気になるらしい。
この間も花の種をもってやってきた。
「いっぱい人からもらっちゃったのよ~。ウチの畑じゃとても蒔けないから、オタクで蒔いてくれる?」
「いやいや、そんな花なんか。。このへたくそな私が育てられませんよ」
「いーのいーの。こーんなに広いんだから蒔いちゃって」
ウチの畑は狭いけど、オタクは広いからこのくらい蒔けるだろうといわんばかりである。年末にも彼女から冬瓜の種をもらった。
「どう?冬瓜の芽でてる?」と、最近聞きにやってくる。
まいったなあ。これで花の種なんか蒔いちゃったら「どう?出た?」「あら、全然出てないわねえ」などと言ってくるんだろうな。
おまけにジャガイモの畝に草が生えているのをみて、
「ああっ、もう我慢できない。私ってこういうの気になっちゃうのよね」
といって、ぶちっと草を根こそぎ引き抜いた。
思わずカチンと来る。

「ああ、どうかそのままにしておいてください。もうお気づきだと思いますが、この畑は草をわざと生やしています。草の根に微生物がいてそれがいろいろと働いてくれてこの土地に栄養を与えてくれるんです。」
「あら。じゃ、上の草は刈っちゃっていいのね」
どうしても草を取りたいらしい。
「いやいや。草が生えているところはなぜか野菜も大きいのです。野菜の生長を見極めながら刈ったり刈らなかったりするんです」

しばらく黙っていた彼女は、ふいに梅の木の下は草を生やすとか、なしの木の下はムシロを置くと草も生えないし、虫も来ないからいいとか、彼女の知っている事を話し始めた。


近所でいくつか畑がある。人々はお互い軽い情報交換はしているようだが、あまり付き合いは深くなさそうだ。それぞれにちがう考えがあって自身の哲学のもと、野菜作りに励んでいるようす。しかしわが畑はそこから逸脱している。
草はやすだとお?
虫とらないだとお?
うざけんじゃあねえよ。
ってなかんじでみてんでしょうなあ。
みんな遠巻きに静観している感じだが、彼女は果敢にいどんでくる。私はこの今の状態を保とうと必死になる。けれどもそれは単なる私の所有欲にすぎない。ここは借りた土地。返せと言われればいつでもすぐ返さなくてはいけない。いつでもその覚悟はあると思っているのに、種をまき、芽がでて膨らんで~は~なが咲いて実がついて~、なんてえのを味わっていると、どんどん所有欲があふれてくる。
そしてどこかでこのやり方でうまく育つところを近所のおじさんたちに見せてやりたい!という虚栄心まで育ってくる。

近頃うまく育たない若葉を嘆く自分がいる。去年はなーんにも知らずに、ただ芽がでてくる事がうれしかった。でも今年はすでにこうやったらこうなるはず、という知恵がついてしまった。そうすると何かにつけて過去の経験と比較する。比較がはじまると苦悩がはじまる。「こんなはずじゃなかった」と。
だがその心の正直なところは一緒にやっている友だちに「すっご〜い!」ってよろこんでもらいたいという単なる見栄だ。

畑の中は欲でいっぱいだ。物質欲、支配欲、虚栄心、自尊心。いつのまにか自然を味わうのではなく、コントロールしてやろうという意識が持ち上がってくる。こうなってくると「自然と私」ではなく、「他人対私」という葛藤が生まれ始める。
これは本来の自然農のありかたではない。ただ自然を観察し、学ぶというあり方から遠くはなれてしまっているのだ。

北海道に住む田中さんから頂いた種が次々に芽を出しはじめた。
白エゴマ、タイサイ、モロッコインゲン。
もろもろの事に心を奪われず、野菜たちを心静かに観察したい。



絵:けんぽ表紙/あやめ

4 件のコメント:

  1. まいうぅーぱぱ2010年5月12日 11:25

    難しいねぇ・・・。田舎の近所づきあいは・・。でも、1本2本の雑草くらいくれてあげましょうよ!まさか、留守に雑草をすべて買っちゃうなんてことァないでしょう??(あったりして・・・)
    せっかくできた野菜を申に食われても、笑って許した我々じゃぁありませんか。
    「笑って許して」和田アキ子じゃぁ!

    返信削除
  2. そーだー。草の一本や二本、くれてやりやしょー。

    返信削除
  3. いやいや、おばさんとのバトル、横で見ている分には、おもしろそうですが。。。
    うちでは、学校などでもらった少しばかりの苗を鉢で育て始めました。どうなるんだろ。

    返信削除
  4. リスさん、まいど。

    畑は強欲でいっぱいだー。むかしは絵描きなんて絵に描いたモチで、やっぱお百姓さんがいちばんえらい!っておもってたけど、内情は隣近所の畑同士内面のバトルが繰り広げられているように見える。表向けの顔はとーってもおだやかなのにねえ。そのギャップがこわい。
    でもそのおばさんは、正直に表現してくれるから楽なのかもしれないね。

    苗もらったの?ウチの畑の草、いる?(いらねーよ)

    あ、そーいや、土作りは、肥えた畑の土をちょっと持ってくるといいってさ。微生物が増えるって。

    返信削除