去年10月、1本の電話が入った。
「アンデルセンメルヘン大賞の選考委員5人のうちの一人に、つくしさんあなたが選ばれました」
この「選ばれました」という言葉に引っかかって、何か怪しいものの勧誘かと思い、かなり疑った。
しかしよくよく聞いていると、とてもありがたいお話だった。
広島を本店に、全国に店を広げる老舗のパン屋アンデルセン。
そのアンデルセンさんが主催するメルヘン大賞。もう38年になるという。
その第38回目の大賞の選考委員の一人に、ありがたくも選ばれたのだった。
「お話づくりは、どこかパンづくりと似ていると思うのです」
送られてきた過去の受賞作品の本を開いたとき、扉に書かれていたこの言葉に、日頃からパンを作っている私はひきつけられた。
選考委員とは、一般募集された物語の中の一つを選んで、私が作画をつけるというもの。
コロナ禍で打ち合わせも直接主催者の方々にお会いすることはなかったが、粛々と仕事は進んでいった。
1000点近くあった応募作品の中で、選考委員長の立原えりか先生が選んだ候補作品のうち、5作品を私は渡された。その中である物語が私を惹きつけた。
それは環境問題を題材にしたおよそメルヘンとは縁がないかのようなお話。
風力発電開発に伴う人々の心の動揺と、それを取り巻く自然界に住んでいる動植物たちの目線。人間の私利私欲に翻弄される生き物たちの、悲しくも深い慈愛に満ちた美しいお話だった。
風力発電開発の話は、私がNYからこの町に移り住んだ時に持ち上がっていた圏央道環境問題と重なった。役所と住人の話し合いが設けられた分校は、その頃この町にあった東京都最後の分校のよう。読めば読むほどよく似た状況に、私はこの話を選ぶことになっていたのではないかと思わせるほど驚いた。
この物語には主人公がいなかった。しかしその中心にいるのは一本のモミジ。その存在がそこに住む生き物たちの心を支えていた。私はこの自然界からの視点で描いた。
圏央道建設が決まって、着々と進んでいた工事。
山が切り崩され、滝や沢の水の流れが分断される。
トンネル工事の途中で崩れ落ちる岩盤。
賛成派と反対派に真っ二つに分かれた、そこに住む人々の葛藤。
今こうしてパソコンを叩いているその後ろに見える圏央道の橋。
開通するまでにいろんなことがあった。
人々はその都度驚き、オロオロし、策を練る。自然は黙して何も語らない。彼らの中で一体何が起こっていたのかは人間の耳には聞こえない。
しかしこの物語は、あの時ここ高尾山に起こっていたであろう自然界の言葉を話しているようにも思えた。
私たち人間は進化の頂点にいるようなふりをしているが、実は地球のウイルスのようなものだ。私たちがいなければ、この地球は全く美しい自然のまま。
そんな幼い子供のような人間を、自然は厳かな目で見つめ、受け入れていく。
自然はなんて暖かい心を私たちに差し出してくれているのだろう。
彼の中に何が入って、この物語を書かせたのだろう。
この物語に出会わせてくれた作者近藤栄一さんに感謝します。
そしてこの素晴らしいチャンスを与えてくれたアンデルセンの方々に御礼申し上げます。
もしご興味のある方は、ぜひ読んでみてください。
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