2018年9月12日水曜日

手当て その1



この夏、左肩が痛くなった。
あげられない。うしろにまわせない。夜中に痛みで何度も起こされる。いかんともしがたい状況になる。

友だちに鍼灸師さんがいる。
彼女とは非二元の話しで盛り上がるが、一度も施術を頼んだことがなかった。

57歳。自分の身体に変化を感じるお年頃。
彼女はこの道のベテランさん、中医のことは専門家。
ここは一発、お年頃の身体に鍼をうってもらい、お灸を据えてもらい、強烈な刺激を受けてみますか!と、彼女にお願いをした。

お天気の午後、彼女が運営する小さな施術室に、はじめて「患者さん」としてでむく。

「ちょっと遊んでいい?」
彼女の楽しそうな顔に、期待が膨らむ。
「うん。いいよ!」

ベッドに座ると、彼女はそっとわたしの腰に手をあてた。
静かな時間が流れる。
ふと腰の感じがちがうのに気がついた。

あれ、、?
腰が、、、消えていく、、、。

私たちは普段、自分の腰の感覚に気がついていないが、腰という存在は知っている。しかし今、私の腰が消えはじめている。。!重くどっしりとしているはずの腰が、どんどん希薄になり、軽くなり、それと同時に上昇していくのだ。

な、、なんじゃ、こりゃ?


「さて。じゃあ、ベッドに横になって」
彼女の言葉で現実にもどった。
それから鍼灸の治療に入った。

まずはお灸。
むかーし、親にお灸を据えられていた時期があった。怒られて、じゃないよ。
それとなぜかどこかの家で専門家の人にしばらく据えられていたことがあったなあ。。
などと思いだしながら、そのころとはまったくちがう、熱くない、やさしいお灸を味わっていた。その間、環境音楽を聴きながらのウットリとする時間。

そして鍼。一瞬の痛さのあとは、ただじーっとしているだけ。すこーし身体のどこかが反応している。だけど強い刺激ではなかった。
たっぷり二時間。内容の濃い施術をしてもらった。



その晩。
いわゆる好転反応か、痛みが増した。
昔漢方薬を飲んでいたことがあり、好転反応というものがあることを知っていたので、
やはり出たかとおもった。
症状が悪化したことにより、これは本格的に自分でも治していかねばならんと思い立ち、母直伝の民間療法も同時進行。これでは彼女の施術か、民間療法か、どっちが効いたのかわからなくなるが、そんなこといってられない。

その晩から、朝晩の一回ずつ、ショウガと玉ねぎをすりおろし、はちみつを入れたぬるま湯割りを飲み続ける。
症状は相変わらず一進一退を繰り返した。


次の週、二回目の施術もお灸を中心にしてもらったが、そのうち首が痛くなりはじめ、ガマンできなくなった。

「おねがい。お灸はいいから、手で触って。。。」

じつは最初から彼女の手の力を感じていた。
腰に手をあててくれた感触、時おりお灸のあとにそっと肩に手をあててくれている時のなんとも言えない安堵感。
首の痛さもあいまって、針灸という道具を通してではなく、直接彼女の手で触れてもらうことでの、あの安堵感がほしい!という衝動が起こったのだ。

鍼灸師さんの立ち場としては複雑であったと思う。しかし彼女は患者のわがままを受け入れてくれた。



頭の側に回り、わたしの首を両手で支えてくれた。
とたんに右足に熱が走る。足の甲が熱くなる。やがてそれは左に移っていった。
耳にふれられていたとき、ふしぎなビジョンを見た。
それはおだやかなイギリスの丘陵地帯。
ああ、、、ここで私たちはあったことがある。。。
そのうち、左に修道院が見えた。
ここに、彼女はいたのか、、?
そんな思いが出てくる中、首の痛さは治り、施術は終った。

その日の午後は最悪だった。起き上がれないまま、ソファで一日を過ごす。夕方、母直伝の番茶醤油梅干しで、なんとか元気を取り戻した。
ひどい後退反応だ。こんなに疲れがたまっていたのか。

考えてみれば、たまるはずだ。
父の死の前後、高知を行ったり来たりした。その間日本とアメリカの仕事も忙しく、バイトも入りっぱなし。畑も仕込みの段階であったが、行っても疲れ果て、ほとんど手つかず。
初盆も終り、ホッとしたころだった、痛みが出たのは。

「典型的な五十肩ね」
彼女は言った。
「時間かかるわよ。しぶといんだから」



さて三度目の施術で、わたしはふしぎな旅に出る。
つづきはまた。




絵:ホタルブクロとどくだみ

2 件のコメント:

  1. しろねこあん2018年9月12日 20:46

    五十肩お見舞い申し上げます。わたしもなったことありますが、ちょっとぶつけただけでもとびあがるくらい痛かったです。洗たく物干すのがひと苦労、エプロンのヒモも結べず不便でしたが左肩だったのでまだたすかりました。治るのに一年くらいかかりましたが、早い人で数ヵ月から半年で治る人もいるそうです。お友だちのハンドパワーで早く治るといいですね。夏の疲れも出る頃ですので、ご無理のないようにしてください。おだいじに。

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  2. しろねこあんさん、

    やさしいお心遣い、ありがとうございます。
    そうそう。ちょっとぶつかっただけでも、へんな動きしただけでも、うずくまるぐらいいたいです。
    エプロンのヒモ、じぇんじぇんむすべましぇん。
    やっぱり一年近くかかるみたいですね。

    そちらもお仕事、ごくろうさまです。
    お互い、夏の疲れがすーっととれていきますように。

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