2017年2月24日金曜日

山の声




「こんちわ~」
「おーっ。きれいになったなあ~」

近所に住む女子大生と久しぶりに道でばったり。きれいにお化粧をして、今流行のファッションに身を包み、何を聴いているのか、耳にイヤホン。

随分変わったなあ。。。
感慨にふける。
あれが「山の声」を聞く少女だったとはとてもおもえない。

彼女がまだ小学校に入ったか入らなかったかの頃。女の子とも、男のことも区別がつかない、不思議にとぼけた彼女と話しをするのが大好きだった。

ある日のこと、道でいつものように二人でいると、彼女が山の声のことを話しはじめた。
「え?山ってしゃべるの?」と、私。
「うんっ!え?つくしちゃんは聞こえないの?」と彼女。

目の前の山を見つめて、山の声を聞いて見る。だけどわたしの耳にはうんともすんとも聞こえない。
「え~~~。聞こえないよお~~」
「そう?どれどれ」

そういって彼女は、地面に腰を下ろした。足を大きく開いて膝を立て、ピラミッドのような格好になって、じーっと山の声を聞いている。自分も山とおなじカタチになって、山と会話しているようだ。
そしてこっちをみて、にこっとわらった。
「ほらあ~~、きこえるじゃーん」
「なんていってる?」
「おおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~って!」

わたしはその声に感動した。
彼女は山の声を聞いている。確かに聴いている。
その事実に心が震えた。


あれから高校生になった彼女に山の声はまだ聞こえるか?と聞いたことがあった。
彼女はぽかんとした。
「なんのこと?」
「ほらー。あんた、山の声聞いていたじゃ~ん」
その時の彼女の顔が忘れられない。まるでお化けでも見るかのようにわたしを見たのだ。
「このおばさん。きもい。。。」とでもいわんばかりに。

聞いてたのは君だ。わたしじゃない!(笑)

黒いハイヒールを履いた今の彼女に、山はもう話しかけないのだろう。そのイヤホンから聞こえる声は、山から遠くはなれたところにある声なのだろう。
今も私たち二人の目の前には、昔と変わらぬ山があるのに。


この村で年に2回のご神事がある。ふもとの小さなほこらの前で、神主さんは祝詞をあげる。祝詞をあげるその始まりと終りに、「おおおおお~~~~~っ」という声を発するが、その声が彼女が山の声をマネしてくれた音によく似ている。
毎回、山を背にこの音を聴くのがわたしの楽しみになっている。



かつてわたしも彼女のように、山の声を聞いていたのだろうか。
彼女もわたしも、人間の世界にどっぷりはまっていくにしたがい、山の声がだんだん聞こえなくなっていったのかもしれない。

思えばずいぶんと人間のルールという服を重ね着してきたもんだ。
そろそろ一枚一枚脱いで行くとするか。

そのうち、山の声も聞けるかも知れない。
きっと今も山は話しているのだ。


絵:「じゅ」/和紙、洋紙、オイルパステル、水彩


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