2016年3月21日月曜日

母を連れて植物園に行ってみた


さて、昨日のつづき。
ゆっくりゆっくり事は進み、例の問題の坂も母の背中をやさしくささえながら、無事診察にまでこぎつけた。
先生に、母の血液検査の結果が完璧で、非の打ち所がないとほめられ、薬を受け取り、タクシーに乗って、牧野植物園へ向かった。

植物園の入り口のベンチに座り、
「あ~~~、これて良かった~~~。気持ちええわあ~~~」
と、うれしそうな母。
青空に山の景色が溶け込んで美しい。連れてこれて良かったと安堵する。
すると、
「もう、ここでええわ」と一言(笑)。

「え?中入ろうや」
「えい!もうここで十分!」
ようするに、歩きたくないのである。彼女の心の中に、「もしこけたら。。。。」というアイディアがまた浮かんだか。

牧野富太郎記念館は五台山という山の中腹にある。自然の中に入りながら、ちゃんと舗装された道も完備してある。せっかくなのだから歩行機つかって歩こうや、とうながす。
またもや目がロンパリ、口がへの字。しばしの沈黙。。。
「行く。」

途中で何度かベンチに座り、ハッパかけながら、記念館の建物までなんとかこぎつけた。
そこで車いすを借りる。
車いすを押し館内をいろいろまわり、お茶を飲み、トサミズキやキブシやマンサクを愛でながら母と話す。

建物から出た所で、開けた場所があった。高知の街が一望できる。少し段差があったが、そこに行ってみた。
さて戻ろうとしたとき、問題が発生。たった1センチの段差を越えられなくなった。
車いすの使い方も良くわからないまま、何度かふんばってみたが、65キロの母を少しももち上げられない。
後ろにはフェエンスもない。母が車いすをへたに動かしでもすれば、崖に落ちる。
車いすにロックをかけて
「ぜったい動かんといてよ!」
といいはなち、母をその場に残して人を呼びに走った。

ところが平日のせいか、誰もいない。一組いたが、皆お年寄りでとても母の車いすをもち上げられそうにもない。あっちこっちの建物や展示室を走って廻りながら、これは何かあるんやろうな、と思った。やっと見つけた人影はカフェのお姉ちゃんひとり。
「ごめん!母の車いすが1センチの段差で動かんなった。手伝おて!」

やっと母の所に戻ったとき、ぽつねんとそこにいる母のすがたを見た。なんと心もとないろころにおいて来たのだ。バックに広がる高知の風景。はかない一瞬のうつくしさとやるせなさ。
「せーの!」
カフェのお姉ちゃんと息を合わせて車いすを持ち上げた。

カフェのお姉ちゃんにだいじな情報をもらった。そのまま下まで降りてくには、もっと大変な坂を延々と下らんといかん。もと来た道に戻った方がいいと。
帰り道はちょっときつかった。ほんのわずかな上り坂は、母の体重を十分に感じさせてくれた。

帰りはタクシーまで車いすを使い、母が歩行器を使ったのは、タクシーを降りて家までだった。

家に帰り着いて、さすがにちょっと疲れて休んでいると、母が言う。
「あれ?なんかちがう。。。」
母を見ると、出かける前と同じ姿勢でソファに座っている。
「ここにこうして、おなじポーズで座っちゅうがやに、心が軽い。。。
なにこれ?さっきとぜんぜんちがう。。。。」
独り言のようにつぶやく。

母に何が起ったのか。

つづく。

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