金曜日の最終電車の中にいた。家で仕事をしていると、そんな時間に電車にのることはめったにない。
私が座っている目の前に、サラリーマン風の兄ちゃんが立っていた。右肩に重そうな大きな鞄をかけ、ゆらゆらゆれている。その揺れは時に小刻みに、時に大胆に、私のひざにあたる、足を踏む。その大きな鞄はどんどん私の領域に入り込んできて、油断すると顔に当たりそうになる。おそるおそるみあげると、30代くらいの怖そうな顔の兄ちゃんだった。ふてくされて仕事に不平不満たらたらの寝顔がそこにあった。
そこまで眠いなら、席を譲って寝させてあげたい気もする。しかしあの顔が、私の声で目をさまして、「なんだなんだ」って睨みつけたらどうしよう。「オレは寝てなんかいないんだ」と逆切れされたらどうしよう。。。そう思うとなかなかいえない。
しかし彼の揺れる身体は、ほとんど自分をささえきれないほどになっていた。片手で鼻くそをへぞり金属のポールをもつかとおもえばまた手を離し、その手があらぬ方向に向けて宙を舞う。おどってるようにもみえてくる。
なんだかおかしくなった。
つんつん。
私はおもわず兄ちゃんのおなかを二回ついていた。
兄ちゃんは目を開けた。大きな目だった。
「眠そうね。どうぞここに座って」
と言いながら立った。
にいちゃんは、とつぜんのことにぽかんとしながら、
「あっ、すいません。。。」
とペコペコお辞儀をしながら座った。
感じのいいにいちゃんだった。
彼は座るやいなや3秒以内に爆睡状態に入っていった。
手からつり革が外れない様に自分の手首にぐるぐる巻き付ける人、二つのつり革をもち、器用に腰をぐるぐる回転させる人、がっくりうなだれても絶対つり革を離さない人、これ以上かがみ込めない程頭を下げて眠る人。。。
その中に怪しい動きをするおじちゃんがいた。斜め前に立っていた初老の人。自分の前の席が開いても決して座ろうとしない。酒のせいか、周りの人よりひときわ大胆に踊るおじちゃんであったが、一瞬その動きが止まった。何事かとみると、こっちの方を向いている。その目が何かを捉えたようだ。左手がこっちにむかってのびていた。その先に他の人の膝の上に乗っている黒い鞄があった。彼はその上になにかをみつけたらしい。そーっと差し出される手。ゆっくりなにかをつかもうとしている。鞄の上には何もない。おじちゃんは一瞬手を止めてそれをとるのをためらっていた。だが意を決してそれをつかんだ!
私はそのおじちゃんのそのあとの様子を確かめた。だが、おじちゃんは何もなかったかのように、またゆれはじめた。
金曜日の最終電車は、そういう人であふれていた。
久しぶりに見るその光景に、人はべつに不思議と感じないのだろう。だけど、これはおかしい。こんなに疲れ果てるまで仕事をしたり、こんなに泥酔するまで飲んでしまわなければいけない生活は、ニンゲンにとって必要な事なんだろうか。これが絶対的な価値観なんだろうか。
日本人はホントに働き過ぎだあなあ。。。
そんな事を思わずにいられない時間だった。
あの爆睡兄ちゃん。きっとまともに家には帰れなかっただろうなあ。
おっちゃん、何を掴んだんでしょうかね。
返信削除満足したんでしょうかね。
聞けばよかったね。
返信削除「なにみつけたんですか?」って。
幸せでもみつけたんでしょうか。
簡単に幸せを見つけられる人は、終電に乗らないものです・・。
返信削除なるほどー。
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