2009年1月29日木曜日
日本のワイン
生まれてはじめてイタリアを旅してからというもの、ワインの虜になった。
くわしい事もうんちくも何もわからない。けど好きなのだ。だからニューヨークでいた頃はよく飲んだ。その後高尾のお山のふもとに住んでからは「もう大好きなワインとは縁を切った」と思っていたのに、日本にはこだわりの人があちらこちらに隠れひそんでいるものだ。
八王子駅近くの、和飲”つかもと屋”のご主人は「フランスのワイナリーを最も多く歩いた日本人」という形容詞がつくくらいのワイン屋さんのプロである。
おっとりした雰囲気は、とても一人でフランス中を駆け回るアクティブな人には見えない(失礼)。でもいったんワインを語らせると、デルワデルワいろんなお話。何を聞いても答えてくれる。ちょっとイジワルな質問をしてもこれまた真摯に受け止めて(笑)ちゃんと答えてくれる。で、ちっとも偉ぶらない。
フツー、その道の通は、知っている事を聞かれたりすると、
「おうおう、それはなあ〜」
と、オードリーの春日みたいに、胸がそり返るもんだが、つかもとさんは、細々としゃべる。へんに聞きかじって好き勝手しゃべる私みたいなやりにくい客を相手に、ハラも立てずににこにこと付き合ってくれる。
そんなご主人がめずらしく「これ、お勧め」と、日本のワインをすすめてくれた。
それは「マスカットベリーA」という日本品種の赤ワインだった。
ニューヨークから帰ってまもなく、勝沼に立ち寄った際、はじめて甲州種という日本原産のぶどうによるワインを飲んだ。日本のワインと言えば、「赤玉ハニーワイン」ぐらいしか記憶にない。あの甘ったるいワインは大人になって一度も口にした事がなかった(お−い、子供の時にでも飲んだのか!)。
だから、勝沼のワイナリーで、その白ワインにであった時、あまりの美味しさにびっくりしたのだ。しかも日本のワインは保存料の規定が厳しいのか、いくら飲んでも悪酔いしない。口当たりがよく、本当に和食に合う。NYから帰って間もない頃は、よくまとめて勝沼から送ってもらっていたものだった。
ところが、赤ワインに関しては、私としては正直言って飲めたものではなかった。せっかくだから日本のワインとなれば日本の品種にこだわって飲みたい。だけど、
「う....、白が美味しいのに、赤はこれかあ...。でも、日本だものしょうがないのかもしれない」とあきらめたのだ。
NYの北の方にあるワイナリーに行ったときもそうだった。白は美味しいが赤は飲めたものではなかった。つまり白は湿度のある所のぶどうでも美味しいが、赤ワインはだめなのかもしれない。
イタリアやカリフォルニアのような乾燥地ではない、湿度の多い日本の赤ワインは飲めないのかもしれない、と思っていたのだ。
つかもとさんがすすめてくれたのは、まさにその、私が飲めなかったマスカットベリーA種だったのだ。
「いや...これはちょっと.....」思わずあとずさりする。
なんつーか、田舎臭ーい、泥臭ーい味を覚えている。
ご主人は私の舌の好みを知っているはずである。だからそんなものを勧めるにはわけがあるはず....。
じつはそのワイナリーの若ご主人が、何年間かフランスのワイナリーで修行して、日本の品種のぶどうのワインを変えていこうと試みていたものだったのだ。そしてついに出来上がった新しいマスカットベリーA!
あろうことか(失礼!)美味しいのだ。さわやかであとからこくがやってくる。ぜんぜん赤玉ハニーワインなんかじゃなかった。あとからあとから飲みたくなる。すこーし甘みが残っていると言うが、私には全然気がつかない。
「これ、すき焼きに合うと思わん?」というご主人。よく言ってくださった。絶対に合う。つかもとさんはそうとういやしい。
不思議なことに若々しい味がする。このワイナリーのご主人の若さが味に入っているのだ。
「これから時間をかけてこのワインはもっと熟成されていくんだろうね。これからが楽しみだよ」
今までそんなふうにワインを味わった事はなかった。作り手の成長もいっしょに見守っているのだ。ワインも生き物なんだなあと感じる。買って寝かせるだけが熟成じゃないのだ。作り手が熟成していくのといっしょに、ワインもその熟成度が高まっていくのだ。
じゃあおばさんも、その若ご主人を影から応援しようじゃないの。
いやいやこれだから『日本人』はやめられない。うんちくたれは、そこやらここやらに、かくれひそんでいるのだ。
追伸:そのワインの名前は、『シャンテますかっとベリーA』といいます。くわしいことは、つかもとさんに聞いてね。
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