「あの橋を越えると、急に空気が変わって寒くなるよ」
八王子にあるワイン屋さんが、高尾に配達に来るたびに、そう感じる場所がある。車と違ってバイクは外の温度変化に敏感だ。だから彼の言葉にはどこか説得力がある。
その橋の名は『両界橋』。
その名の通り、あちらとこちらの境の橋。一体誰がつけたのか。甲州街道沿いにあるその橋の先には、小仏関所がある。関所とは今の税関のようなもんだ。関所越えに命を張った者たちはたくさんいる。そのあげくに処刑された者たちもいると聞く。
両界橋は、そういう意味ありげな場所にあるのだ。そこが境になって温度差があるとは、あまりに出来すぎ。つまり、こちら側が東京方面で、あちら側が相模湖方面、ということになるのか?
私の家は、その橋を越えたあちら側にある。これはもう、居ながらにして非日常空間にいるということなのか?
たしかに、我が家のまわりを見渡せば「今は21世紀か?」と疑いたくなる。お祭りや年中行事、あちこちにあるお地蔵さまやほこら。300年以上前から代々続いている家々。大勢の人々が通ったであろう旧甲州街道...。なんとなく、そこかしこに、都会では決して味わえない、昔懐かしい空気がただよっている。その中で私はニューヨークの仕事をする。このギャップがおもしろい。ご神事に出席しながら、アメリカの絵を描く。両極は同時に存在する。
特に夏が終わって秋の気配が漂うこんな季節は、飛びかう赤トンボを眺めながら「300年前も同じ風景だった?」と思ってしまう。
ぬらりひょんが、ひょうひょうと道を歩いていても、誰も気がつかなかったりする...。
父じゃないが、私もこれから電話に出るときは「もしーっ?」と言わなければならないのかもしれない..。
(んなわけないだろ)
絵:オリジナル『北条政子』強さと母性と残酷さを合わせ持つ。
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