2021年12月21日火曜日

ゆるキャラ聖霊

 



電車の中で辺りを見渡しながら思う。

「これ、夢なんだ。。。。」


そう思うと、さっきまでの恐れが消えていることに気づく。


日々の生活の中で、無意識に恐れと格闘しながら、恐れと共に考え生きている時、私は夢の主人公になっている。

しかしその恐れに気づきそれを赦した時、私は夢の中に住む一人の住人ではなく、それを引いてみている、夢を見ているものになる。


明るい日差しが車内を照らす。

ガタゴト揺れながら、目の前を流れていく風景を眺めていた。



改札を出て目的地に向かう途中でも、ここが夢であることを意識しながら歩いていた。


すると視線の先にゆるいキャラがいた。パチンコ屋さんのキャラクターのようだ。


猫のような恐竜のような、よく正体がわからないゆるキャラが、

まあるい体をユッサユッサと揺らしてリズミカルに動いている。

巨体から突き出たちっちゃな足を右、左と交互に出しながら踊っている。


その姿を見た時、私は衝撃を受けた。

いきなり嬉しくなったのだ。心がぱあっと明るくなった。


「きゃあ~~~!楽しい!めっちゃ嬉しい!」


たくさんの人が行き交う中で、私の心は喜びで広がった。なんて素敵なんだ!なんて楽しいんだ!

興奮のあまり走っていって、そのゆるキャラをむぎゅ~ッと抱きしめたくなった。


そうか!これなんだ!これが真実なのだ。

この幻想の夢の世界の中で、唯一の真実がそこにある。それをあのキャラは教えてくれた。


いや、そのゆるキャラが真実ってな話じゃない。

その思いだ。

それは軽く、明るく、楽しく、嬉しい。

それこそが事実なのだ。



夢の中の主人公には、この世界は深刻だ。いつも取り掛からなければいけない問題を抱え奔走する。

そして自分がその夢の中にいる主人公であるとさえ気がつかない。


だが苦しみの中でふと気がつく。これは本当の苦しみなのだろうかと。この苦は実在するのかと。いつまでそれを追いかけ続けなければいけないのかと。

そこで初めて疑問がわく。一体この世界はなんなのだ?


そして視点は夢の中の主人公の視点から、この世界が実在していないことを知識で知り、やがて夢を見ているものの視点に移る。


これは無なのだと知ることによって、しばらくはその視点で安心できるかもしれない。

だけどその夢からいつ覚めることができるのだろうか。


それは真実はどこにあるかを教えてもらうしかない。

どこに向かっていけばいいのかを。


そしてその夢から出る出口を教えてもらう。


「こっちこっち~。こっちだよ~ん」


聖霊がかぶりものをして呼んでいた。





絵/ミステリー表紙イラスト

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